前編のあらすじ。人見知り全開のド陰キャ新人だった私は、I先輩に釣りに連れ出され、「自分のことイケメン担当だと思ってた?」という衝撃の宣告とともに、宿題を出されました。透析帰りに毎回シャンプーブローに来てくれるSのおばあちゃんに、ハンドマッサージをサービスしながら、喋る練習をしろ——。
Sさん、I先輩としか喋ってるの見たことないんですけど。絶対無理なやつじゃん……と思いながら。
あと、あのとき思ったんですよね。それを言うためにわざわざ釣りに誘ってくれたんだなあと。……いや、釣り行きたくねえって言ったじゃん、俺(笑)。お店でも良かったんだけどな、その話。
ハンドマッサージ大作戦、開始
翌週から、私の特訓は始まりました。I先輩がSさんに話をつけていたらしく、
「今日からあなたが手のマッサージしてくれるんでしょ。ありがとう」
ぶっきらぼうに言われました。うー、無理ぃぃ。
「はい、お願いします」。引きつった笑顔とともに、ハンドマッサージを始めました。
それを横目でチラチラ見るI先輩。喋れ、話せ! 目で訴えかけてきます。いや、話す内容なんてないし。何歳差だと思ってんだよ。話題ねえよ。
その日は、ただただハンドマッサージをしただけで終わりました。「気持ちよかった、ありがとう」。その後、I先輩に引き継ぎます。
「大倉くん、今日は近くで見てて」
うわー、なんか知らんけど、ちょっと怒ってる(笑)。そんな言い方でしたけど、「はい」と言って、すごい近くで見させていただきました。
そしたら——あんなに僕と喋らなかったSさん、めっちゃ喋るんですよ。俺のこと嫌いなんじゃねえか、っていうぐらい喋る。そりゃもう、むっちゃ喋る。Sさん、ニコニコしながら帰っていきました。
「大倉くん、今日一緒に休憩な」
完全に怒られるやつやん。もう昼休憩が地獄の時間だと確信しました。終わった。
「辞めます」と言おうと思っていた昼休憩
実はこの少し前、むっちゃ性格の悪いNチーフ(女性)にむっちゃケツを蹴られ、「おめえの代わりはいくらでもいるんだよ! やめちまえ!」と怒られたばっかりでした。I先輩にも言われるのかぁ。そう思ったら、もう辞めよっかなぁの気持ちが大きくなってきました。同期も、もう残りはイケメンと私だけです。(前回「バイト」って言いましたが、正確にはインターンです。)
昼休憩。I先輩が休憩に入るタイミングを待って、一緒に休憩室に入りました。むちゃくちゃ足取りが重く、「辞めます」と今日言おう。そう思いながら。
「大倉くん、今日全然喋れなかったね。でもさー、俺、めっちゃ喋ってたじゃん」
「はい」
「ちゃんと見てた?」
「はい」
「じゃあお前、嘘ついたな」
「え?」
「俺、喋ってねえよ」
「は?」
「Sさんが喋ってただけじゃん」
ハッとしました。ゲラゲラ笑ってただけだったんですよね、そういえば。
「そんなに喋ってなかったです、そういえば」
「でしょ。俺、うんうん聞いて、ゲラゲラ笑って、たまに質問してただけだよ」
確かに、そうだ。
人見知りの美容師人生を変えた話
「あのさあ、Sさんは話を聞いてほしい人なんだよ。だから、話を引き出してあげれば、勝手に喋ってるの。そうでしょ。何も自分から話題を作らなくても、質問をすればいいんだよ」
「これはさ、全員がそうだって言ってないけど。相手の話を聞くのも、自分の話をするのも、それこそ黙々と話さないで仕事するのも——お客さんをよく知ることが大切なの。」
「カルテよく見たら書いてあるはずだよ。よく見なくても書いてあったはず。何が好きか、話を聞いてほしいのか、孫の話、透析でいつも隣に寝てるじいさんに言い寄られてる話。書いてあっただろ?」
確かに、書いてあったような気がする……。
「で、大倉くんも、Sさんと話したこと、どんどん書けばいいんだよ。俺は人に書かれても全然嫌じゃない。……でも、Nさんのカルテは書かないように。あいつ、やべえよな。マジ、ここだけの話、俺嫌いなんだよ(笑)」
その日の休憩は、今後の美容師人生が変わるほどの内容でした。
自分が面白い話をする必要はない。質問して、聞いて、笑えばいい。そのために、お客さんをよく知ること。カルテをよく見ること。話したことを、どんどん書くこと。あと、Nチーフのカルテは書いちゃいけないこと(笑)。人見知りの私が今日まで美容師をやってこられた土台は、全部この日にもらいました。
I先輩の、最後の宿題
I先輩は、その後の人生にも効く宿題を出してくれました。
コンビニのレジで、ゴルフ場の受付で、初めてのお客様に。挨拶に、ひと言だけ足す。乗ってきたら、あとは質問して、聞いて、笑う。
今もその教えを守ってますよ、I先輩♥
人見知りの武器は、カルテです。
ANEXIS SalonOSの電子カルテは、お客様と話した内容を口で言うだけで記録でき、AIが要点を整理してくれます。予約が入れば、そのお客様のカルテがすぐ出てくる。「何が好きか」「どんな話をしたか」を見てから席にお迎えできる——I先輩の教えを、仕組みにしました。話題を作れなくていい。質問の種は、カルテの中にあります。詳しくはANEXIS SalonOSのご案内をご覧ください。