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そのカルテ、退職と一緒に持っていかれます — 顧客情報は「疑わずに済む仕組み」で守る

そのカルテ、退職と一緒に持っていかれます — 顧客情報は「疑わずに済む仕組み」で守る

スタッフの独立や退職は、どんなサロンにもいつか訪れます。何年も一緒にやってきた仲間が「独立します」と頭を下げる。寂しいけれど、円満に送り出す。ここまではいい話です。

問題はその後です。数ヶ月してから、常連のお客様にこう言われる。

「あなたのところのスタッフさん、私に手紙送ってきたわよ。独立するんですってね。ぜひ来てください、って。……大丈夫なの?」

手紙が届いていたことも、そのスタッフがそんな動きをしていたことも、オーナーは知らない。中には、辞めることすら事前に聞かされていなかった、という店主も少なくないようです。

今日は、この「静かな失客」——顧客情報の持ち出しについての話です。重い話ですが、避けて通れないテーマです。

カルテは、サロンで一番価値のある資産

お客様の名前、連絡先、来店の履歴、好みのスタイル、薬剤の履歴。カルテに詰まっているのは、何年もかけて一人ひとりと積み上げてきた、そのサロンにしかない財産です。

内装は入れ替えられます。設備は買い直せます。でも、お客様との関係の記録だけは、お金を出しても買い直せません。サロンの本当の資産は、鏡でも椅子でもなく、この顧客情報なのです。

ところが、この一番大切な資産が、多くのサロンで一番無防備に置かれています。紙のカルテ、エクセルの顧客リスト、個人のスマホに入った連絡先。その気になれば、誰でも書き写せて、写真に撮れて、コピーできる状態で。

持ち出しは、必ずしも「悪意」から起きるわけではない

誤解のないように書きますが、これは「悪い人がいる」という話ではありません。

退職するスタッフが「自分が担当してきたお客様だから」と感じるのは、人情としてゼロにはできない部分があります。長く担当すれば、情も生まれる。だからこそ、持ち出しは悪意のない人にも起こり得るのです。

これは「悪人がいる」問題ではなく、「持ち出せる状態で置いてある」という環境の問題です。どれだけ性善説で運用しても、環境が緩ければ、いつか事故は起きます。

実際に、こんな話を耳にします。

美容室ではありませんが、ある人気の治療院での話。施術中、カーテン越しにひそひそ声が聞こえてきた。「この近くで独立するので、また詳しくはメールを送りますね」——担当者が、お客様に小声でそう伝えていたそうです。
夜、忘れ物を取りにお店へ戻ったオーナー。ドアを開けると、スタッフがカルテを一枚一枚、スマホで写真に撮りまくっていた——。

どちらも、事前には何のサインもなかったといいます。

起きてからでは、取り返せない

顧客情報の怖いところは、一度流出したら回収できないことです。挨拶状がお客様の手元に届いた後では、もう遅い。

そして、オーナーを本当に苦しめるのは、その後の板挟みです。疑って問い詰めれば、これまでの信頼関係が壊れる。疑わなければ、情報は静かに流れていく。「信じたいのに、守りたい」——この二つの気持ちの間で、店主は一人で悩むことになります。

そして、いざ辞めるとなったとき、円満でないケースほど厄介です。もめて辞める人ほど、法律を盾にして、ある日突然去っていく。話し合いの余地もないまま、カルテだけが消えている。こういうことが一度でも起きると、店主の中の「人を信じる心」そのものが、少しずつ削られていきます。これが一番、もったいない。

解決は「持ち出せない仕組み」をつくること

では、どうするか。答えは、スタッフを監視したり束縛したりすることではありません。そもそも持ち出せない構造にしておけば、誰も疑わなくて済む。これが発想の転換です。

考え方は3つです。

① 顧客情報を一箇所に集約する
紙、エクセル、個人のスマホにバラバラに散らばっていると、そもそも守りようがありません。まずは店で管理するシステムに情報を集約すること。守りは「集める」ことから始まります。
② 見られる範囲を、役割で分ける
すべてのスタッフが、すべてのお客様の連絡先を見られる必要はありません。担当や役職に応じてアクセス範囲を分けておけば、持ち出せる情報の範囲そのものを絞れます。
③ 店の外からは開けないようにする
顧客情報を、お店の外では表示できないようにする。位置情報を使えば、店舗から離れた場所では顧客リストが開けない、という制限がかけられます。自宅に持ち帰って写す、ということができなくなります。

そして電子化のもう一つの利点は、退職時の対応がシンプルになることです。紙なら「どこまでコピーされたか分からない」けれど、システムならアカウントを止めるだけで、その人のアクセスは即座に消えます。

ただし、縛りすぎてはいけない

ここは正直に書きます。守りを固めることばかり考えて、ガチガチに制限しすぎると、今度は現場が回らなくなります。スタッフが萎縮し、「自分は信用されていないんだ」と感じて士気が下がる。それでは本末転倒です。

大事なのはバランスです。目的は監視ではありません。「疑わずに済む」ための最低限の仕組みであって、スタッフを縛るための道具にしてはいけない。この線引きを間違えると、守ったつもりで、一番大切な人との信頼を自分から壊すことになります。

ANEXISでも、この線引きにはかなり気を使いました。いくつか例を挙げます。

お客様とのLINEのやり取りは、担当者だけの秘密にせず、店のスタッフ全員が見られるようにしています。閉じたやり取りは持ち出しの温床になるからです。顧客の名前は誰でも見られますが、住所や電話番号は一部を伏せ字にして、フルの個人情報が一覧でズラリと見える状態にはしていません。予約対応で電話番号が必要なときは見られますが、一覧画面には出さず、一件ずつ開かないと確認できない——つまり「まとめてコピーする」ことがしにくい作りにしています。

どれも、業務は普通に回るけれど、大量に持ち出すことだけがしにくい。そういう匙加減を狙っています。

ちなみに、円満に独立していくスタッフに対しては、「自分の担当だったお客様には案内を出していいよ。ただしカルテは個人情報だから渡せない。連絡先は自分で書き写しなさい」と送り出す、懐の深い店主もいます。それはそれで一つの美しい形です。問題は、そういう信頼が通じない相手にどう備えるか。仕組みは、その「万が一」のためにあります。

ANEXISの場合
ANEXISには、店舗から離れた場所では顧客情報を表示できなくする「店外アクセス制限」、スタッフごとに閲覧・編集できる範囲を分ける「権限管理」の仕組みがあります。カルテはクラウド上にあり、紙のように束ごと持ち出すことはできません。これらはスタッフを疑うためではなく、オーナーが疑わずに済むために——大切な人を信じ続けられるように、と考えて作った機能です。詳しくはANEXIS SalonOSのご案内をご覧ください。

まとめ — 疑わなくて済む環境が、人もお客様も守る

顧客情報の持ち出しは、スタッフの性格の良し悪しの問題ではありません。持ち出せる状態で置いてある、という仕組みの問題です。

大切なスタッフを疑いたくない。その気持ちが本物だからこそ、疑わなくて済む環境を先に用意しておく。それが、あなたの「人を信じる心」を守り、お客様との関係を守り、そして送り出すスタッフとの最後の信頼まで守ることになります。

業務の中で知り得たお客様の情報は、本来お店に帰属するものです。その大切な資産を、性善説だけに頼らず、静かに、確実に守っていきましょう。

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